2017年1月21日土曜日

豊臣政権と徳川幕府

希望のまち東京in東部第26回読書会「柄谷行人の近代世界システム」では中央集権的な豊臣政権と分権的な徳川幕府の違いが議論されました。希望のまち東京in東部第27回読書会「マルクスの国家論」ではロジスティックス(兵站)の重要性が指摘されました。豊臣政権と徳川幕府の違いはロジスティックスの面からも説明できます。

豊臣秀吉も徳川家康も天下人として諸大名に号令して戦を行いました。しかし、その実態には相違がありました。秀吉の場合、兵三百を出せと言われたら、大名は基本的に兵三百だけを出しました。ロジスティックスは石田三成ら奉行衆が手配しました。その代わり米を某所に送れ、材木を某所に送れと命じられた大名もいました。

この成功例は小田原征伐です。しかし、朝鮮出兵では破綻しました。石田三成への反感に象徴される文治派と武断派の争いも、性格的に合わないだけでなく、ロジスティックスが回らなかったことへの現場の武将の怒りがありました。

ここからは十万もの大軍のロジスティックスを統一的に回すことには無理があるという教訓を引き出すことが自然です。そのために徳川家康は上杉征伐に際してはロジスティックスを各大名が行うようにしました。

これは真っ当な方針です。同時代のヨーロッパでは連隊レベルでロジスティックスを回しました。ナポレオンによって師団が生まれ、ロジスティックスは師団レベルで回すようになり、現代に至っています。中央集権的な全体最適よりも部分最適の方が効率的な資源の配分になります。

一方で官僚には方針の失敗を認めたくないという醜い習性があります。奉行衆からすれば朝鮮出兵のロジスティックスの破綻は、悪条件が重なったためで、統一的なロジスティックスという方針自体の欠陥ではないと理屈をこねることも可能です。唐入りは秀吉本人が陣頭指揮する計画でしたが、諸事情で渡海はなされませんでした。現地最高指揮官不在で物事を進めなければならないため、統一的なロジスティックスが上手くいかないことは当然です。また、制海権も朝鮮に奪われている状況では計画通りの輸送になりません。

以上より、統一的なロジスティックスは誤りではないと強弁するかもしれません。この考え方の違いが、関ヶ原の対立の背景になったと考えます。これが加藤清正や福島正則らが石田三成を政権から排除しようとした理由と考えます。

秀吉の死後、家康が筆頭大老として天下を預かりました。その家康が諸大名に号令した戦争は上杉征伐でした。そこでは秀吉の戦争と異なり、ロジスティックスは各大名に任せました。この方針が徳川幕府でも続きました。ロジスティックスを各大名に任せるならば、大名家毎に自己完結させる必要があります。それ故に徳川幕府は間接支配的になりました。

このロジスティックスを大名任せとする方針は参勤交代にも引き継がれました。その代わり幕府は街道という各大名のロジスティックスのためのインフラを整備しました。徳川家光と大名の関係は家康の頃以上に専制君主的なイメージがありますが、間接支配という点は本質的に共通します。

さて上杉征伐ではロジスティックスは各大名に任されたために、その準備で出陣が遅れた大名家も出ました。小早川家や長宗我部家、脇坂家らです。徳川家康は見切り発車で出陣しました。その結果、出陣が遅れた大名家は西軍に取り込まれてしまいます。これが家康にとって、ついてこられない大名を葬り去る意図的なものか、想定よりも西軍が大軍になって狼狽したかは歴史の解釈の面白いところです。

その後、石田三成が挙兵し、大阪方を掌握すると、大名任せのロジスティックスを貫徹できなくなりました。九州の黒田長政や四国の藤堂高虎、加藤嘉明のように領地が大阪の先にある大名にとって敵地を通る輸送は絶望的です。それどころか、細川家は領地が西軍に攻め込まれました。このような状態ではロジスティックスを大名任せにできません。徳川家が差配せざるを得ませんが、豊臣家の奉行衆のように諸大名のリソースを一元管理する方法はポリシーに反します。上から目線で余っていそうなところから足りなそうなところに回すようなことを命じても、現実は上手く回らないものですし、諸大名から反発も受けるでしょう。

そこで家康は斜め上の解決策を採りました。東海道の諸大名の領地を徳川家が預かることでロジスティックス問題を解決しました。自分の領土のことですので、徳川家が一元的に管理することは問題ありません。このエピソードは山内一豊の心意気を示すものと描かれがちですが、単なる精神的なノリではなく、経済的な意味がありました。

いつまでも司馬遼太郎の歴史観ではないだろうということです。司馬遼太郎の明治の歴史観は批判されるようになりましたが、関ヶ原も見直しが必要です。

希望のまち東京in東部第23回読書会「ドナルド・トランプ」第25回「緑の資本論・マルクスの精霊」第26回「柄谷行人の近代世界システム」
http://www.hayariki.net/tobu/koe.html

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■ 林田力 Hayashida Riki
■■ 『東急不動産だまし売り裁判』著者
■■◆ http://www.hayariki.net/

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