2017年1月29日日曜日

ワンルームマンション規制アジェンダ

ワンルームマンション規制について取り上げる。ワンルームマンションの乱立が住環境を破壊するとして問題になり、多くの自治体でワンルームマンション規制条例が制定されている。多くの条例は住戸面積の下限設定や一定割合のファミリー向け住戸の義務付けであるが、東京都豊島区はワンルームマンション税を導入した。

ワンルームマンション問題は具体的なワンルームマンション建設計画に対する反対運動という公衆アジェンダで始まる。これは建設計画の見直しという明確で具体的な要求である。そこには日照阻害、圧迫感、ワンルーム住民による風俗や治安の悪化などの阻止という課題のリストがあり、アジェンダになっている。

ところが、この要求に現行制度は、ストレートに応えられる仕組みになっていない。制度として地区計画や高度規制などは存在する。しかし、それらは建設計画以前の問題であり、建設計画を見直すものではない。

さらにマンション建設反対運動は住環境を破壊する個別のマンションを何とかして欲しいというものであるのに対し、地域全体に規制をかけるアプローチはネズミ退治に地球破壊爆弾を持ち出すほどではないにしても大袈裟である。

住環境を破壊する大型高層マンションを規制することと一戸建ての壁に派手な色で塗っていいかは別次元の問題である。ところが、街づくりの問題として建築規制が議論されると同次元の問題とされがちである。このためにマンション建設反対では団結した住民も地区計画策定ではコンセンサスを得られないケースがある。

公衆アジェンダとして見た場合、建設反対運動は公衆アジェンダとしては被害住民が限定的であり、一般大衆が注目しにくいという弱点がある。これは東日本大震災のように多数の人々が同時に被害に遭うケースには強い同情心を示すが、異なる立場の人々の苦しみへの理解力や共感力が乏しい日本社会に問題があると考えるが、それは本稿の射程から外れる。

被害住民が限定的で、一般大衆が注目しにくいことから、マンション建設反対運動はメディア・アジェンダにもなりにくい。加えて不動産業者は有力な広告出稿者であり、その批判となるマンション建設反対運動は商業メディアでは取り上げられにくい。

このために街づくりの問題をより広く公衆アジェンダ化する試みとして、ヨーロッパの統一的な街並みのような美しさを価値に掲げる動きがある。神奈川県真鶴町では政策アジェンダに採用され、「まちづくり条例」に「美の基準」を導入した。

しかし、このアプローチは、一種の全体主義であり、万人が同意できるものではない。多様な価値観の存在する都市部では困難だろう。問題として美を街づくりの価値とすると既存の住宅よりも新築のマンションの方が綺麗という論理も生じ得るものであり、マンション建設反対運動の出発点とは乖離する。

マンション建設反対運動という公衆アジェンダに直面した政策アジェンダの動きであるが、最初は住民と事業者という民間同士の問題として政策アジェンダに取り上げようとしない傾向がある。調停や斡旋の仕組みを作る、事業者に住民との話し合いの場を持つように行政指導するなどがなされる。

これらは街づくりの問題に対する政治の責任回避という側面があるが、住民運動側にも事業者との話し合いという一手段の入口が目的化するケースがある。住民運動側には話し合いを求める以外に手段がないという窮余の策である。しかし、住民運動側に労働運動家的なメンタリティがあると、何も解決していないにもかかわらず、話し合ったことに達成感を抱いてしまうケースもある。

このため、ワンルーム規制条例によって悪質なワンルームマンションそのものの建築を規制することはストレートな解決策になる。問題は規制の基準が緩く、全てのワンルームマンションを規制できないことである。「寄宿舎(学生寮)」の名目で事実上のワンルームマンションを建設する脱法的な計画もある。条例を制定して終わりではなく、運用して不具合が確認されたら、改善していくPDCAが必要である。

基準を策定しても表面的に基準を満たしても問題のある建築計画を排除できないことから、公衆アジェンダには規制の範囲内ならば全て認める建築確認を改めて、地域と調和した建築計画を認める建築許可へのパラダイム転換を主張する声がある。しかし、これは許可という官僚の権限と裁量を増大させる制度設計であり、時代に逆行する面があり、広い意味での公衆アジェンダになりにくい。また、建築許可は行政が計画に確固としたお墨付きを与えることになり(現状の建築確認もそのようなものと誤解されているが)、事業者の立場を強める恐れがある。

政策アジェンダ主導としては豊島区のワンルームマンション税に注目する。ワンルームマンション税はワンルームマンション問題を背景にしている点では公衆アジェンダから政策アジェンダへの動きである。しかし、ワンルームマンションを認めて税をとることは、マンション建設反対運動の発想ではない。

行政がワンルームマンションによって発生する住民構成の偏りなどの弊害を填補するために生まれた施策であり、政策アジェンダ主導である。それがワンルームマンション抑制に有益な手法と認識され、公衆アジェンダ化する。これが他の自治体でも採用されれば自己補強的サイクルになるだろう。
http://www.hayariki.net/poli/koyou.html
さらに政策アジェンダ主導による可能性として憲法改正による環境権の追加である。この環境権が請求権という具体的な意味を持つ権利として定められるならば、自分の住環境が侵害されるから訴えるというマンション建設反対運動の武器になる。公衆アジェンダと政策アジェンダの麗しき一致が誰も想像していなかった憲法改正によって実現するかもしれない。
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