2016年10月22日土曜日

書評『未来派左翼(下)』

アントニオ・ネグリ著『未来派左翼(下) グローバル民主主義の可能性をさぐる』(NHK出版、2008年)は左翼の衰退の理由を明らかにし、新たな方向性を提示する書籍の下巻である。上巻と同様に対話形式で進む。世界各地の比較的新しい左翼の動きを一定評価しながらも限界を辛辣に指摘する。

私は逆に本書を読んで左翼の未来に悲観的になってしまった。たとえば本書は左翼が土地の家族所有への信仰を有していることを限界ととらえ、土地所有制度の構造的転換を志向する(72頁)。しかし、現実問題として土地の私所有権は大資本の開発に対する障害になる。私所有権は強制的な土地買収への抵抗の拠り所になっている。日本にも総有論のような私所有権を相対化する議論があるが、現実問題として私所有権ドグマを放棄しなければならないとしたら、開発への抵抗は今よりも弱体化するのではないか。

この問題は日本において特に重要である。日本の一番の問題は滅私奉公的な発想が残っていることである。個人の利益よりも集団の利益を優先する全体主義が残っていることである。その右翼的な滅私奉公に対し、左翼的な「一人は皆のために」思想は対抗軸にならず、逆に全体主義を強化する発想となりかねない。古い保守と古い革新が同じ守旧派に映るのは、このためである。

これは観念的な思考実験にとどまらない現実的な問題である。現代ではブラックバイトが社会問題になっている。私のようなロスジェネ世代は世代間不公正の犠牲者であるが、ブラックバイトは起こりにくい問題と胸を張ることができる。不当な条件のバイトはバックレで対抗するためである。それだけの個人主義精神は有している。
http://www.hayariki.net/poli/sayoku3.html
今の若者が不当なバイトでもバックレをせずに、ブラックバイト問題が起きてしまう原因として、公共心や集団に対する責任など道徳教育の影響があるのではないか。そこに左翼的な連帯の精神を持ち込んでも逆に事態を悪化させるだけではないか。本書は、もっと「公」的になること、さらに「共」的になることを志向する(133頁)。しかし、それが滅私奉公的な支配に苦しむ人々の救済になるか疑問を感じた。

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